日々読書メモ

大学で受けた授業をきっかけに太宰治を好きになりました。最近はもっぱら太宰です。自分が読んだ本の紹介(ネタバレ有)、感想、考察等書いてます。もちろん太宰以外でも書きますよ(^^)京都が好きなのでそれについても書いてます。

「愛と美について」を読んでみた

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【注】ネタバレ有

 

電車に乗ってる間太宰の短い話読も〜と思って「愛と美について」を読みました。

五十頁弱くらいしかないんですぐ読めます。

 

兄妹、五人あって、みんなロマンスが好きだった。

 

という言葉から始まるこの物語。ある家族のなんでもない日常の話なんですが、この家族は所謂文学一家で、よく家族集まって暇つぶしに皆で物語を考える、ということをやっています。

 

ここからは本文も引用しながらキャラ紹介していきますね。

 

〈長男〉

長男は二十九歳。法学士である。ひとに接するとき、少し尊大ぶる悪癖があるけれども、これは彼自身の弱さを庇う鬼の面であって、まことは弱く、とても優しい。

 

長男はあれは駄作だやらこれは駄目やらすぐ言うけど、義理人情ものとか見るとすぐ泣く。

でも弟妹にそれは知られたくないということでまたすぐ不機嫌になり尊大な態度をとり始める。

 

卒業後は、どこへも勤めず、固く一家を守っている。イプセンを研究している。このごろ人形の家をまた読み返し、重大な発見をして、頗る興奮した。

 

〈長女〉

長女は、二十六歳。いまだ嫁がず、鉄道省に通勤している。フランス語が、かなりよくできた。脊丈が、五尺三寸あった。すごく、痩せている。

 

心が派手で好きな相手に一生懸命尽くして捨てられることを趣味にしている。

捨てられた時の寂寥感が良いらしい。

でも一度本気で愛した人に捨てられた時は流石に落ち込んで肺病だと言って家族を心配させたが病院に行って検査するとこんな頑強な肺は今まで見たことないと医者に言われた。

 

文学鑑賞は、本格的であった。

 

〈次男〉

次男は、二十四歳。これは、俗物であった。帝大の医学部に在籍。けれども、あまり学校へは行かなかった。からだが弱いのである。これは、ほんものの病人である。おどろくほど、美しい顔をしていた。

 

ひとをすぐ蔑視したがる傾向があり、なんでもかんでもゲエテ一点張り。

でもそれはゲエテを尊敬してるのではなく彼の高位高官を傾倒しているだけっぽい。

 

けれども、兄妹みんなで、即興の詩など、競作する場合には、いつでも一ばんである。

 

〈次女〉

次女は、二十一歳。ナルシッサスである。ある新聞社が、ミス・日本を募っていたとき、あのときには、よほど自己推薦しようかと、三夜身悶えした。大声あげて、わめき散らしたかった。

 

そのナルシストぶりは徹底していて、深夜に裸で鏡に向かい笑ってみたりしてる。

一度鼻に小さな吹き出物ができて自殺も図ってる。

 

読書の撰定に特色がある。明治初年の、佳人之奇遇経国美談などを、古本屋から捜して来て、ひとりで、くすくす笑いながら読んでいる。黒岩涙香、森田思軒などの、飜訳物をも、好んで読む。(略)ほんとうは、鏡花をひそかに、最も愛読していた。

 

〈末弟〉

末弟は、十八歳である。ことし一高の、理科甲類に入学したばかりである。高等学校へはいってから、かれの態度が俄然かわった。兄たち、姉たちには、それが可笑しくてならない。

 

この末弟はなんでもかんでも口を出し、たのまれもしないのに思慮深い顔で裁判を下す。

これには母をはじめとした家族みんな閉口している。

 

探偵小説を好む。ときどきひとり部屋の中で、変装してみたりなどしている。

 

さて、今日は皆暇なので、物語の連作をしようという話になりました。

 

ちょっと風変わりな主人公を出してみたいと話していると、次女が人間の中で一番ロマンチックな種属である老人にしようと提案しました。

長男はそれに賛成し、なるべく愛情豊かな美しい物語にしようと付け加えます。

 

ここからこの家族が物語を作っていくのですが、この物語もまた面白い。

 

普通に一つの作品として出せるレベルです。

 

ざっとその物語をまとめると、人に理解されない年老いた天才数学博士が、酒の帰りに元妻に会い、今は新しい奥さんもいて、充分幸せだから私と君はもう他人だよと言って別れます。

その帰りに3本の美しいバラを買い、妻のために持って帰ります。

しかし家に帰っても誰もいません。

その代わり、元妻の若く美しい写真が飾られており、老人は笑顔で彼女にバラを差し出すのでした。

 

まさにロマンチックで美しい話ですね…。

 

普通に読んでて楽しかったです。

 

しかし、この時流石太宰だな〜と思うのは、それぞれが物語を語る時、ちゃんとそのキャラクターの個性が出ているんですね。

 

例えば、老人が天才数学博士という設定は末弟が決めたものですが、紹介にもあったようになんでもかんでも知ったかをして、今日授業で先生が話した内容を丸パクリして、まるで自分の発見のように話します。

話しすぎて物語どころではありません。

これには皆閉口します。

 

喋ることがなくなり困る末弟に思いやり深い長女が助け舟を出します。

 

長女はその優しさが言葉に滲み出ていました。

話し方がとても優しいのです。

 

幸福は、まだまだ、おあずけでございます。変化は、背後から、やって来ました。

 

長女のバトンを次ぐのは次男です。

 

あまり描写が上手くないと前置きして、語り始めます。

 

確かに殆どが会話で風景描写は全然ありません。

 

しかし次男のおかげでその博士と元妻の関係が見えました。

 

そして次女が口にします。

 

「あたし、もう、結末が、わかっちゃった」

 

そして次女によってこの物語は美しい物語として終わりを告げるのです。

 

しかしここまででも足も出なかった長男は、自分のプライドのためいらぬ付け足しをします。

 

博士の容貌について言及しますが完全に蛇足です。

 

しかし物語が終わればまた退屈な時間が流れます。

 

母は皆の個性ある物語を聞いていましたが、ふと窓に目を移し慌てた声で言いました。

 

「おや。家の門のところに、フロック着たへんなおじいさん立っています。」
兄妹五人、ぎょっとして立ち上った。
母は、ひとり笑い崩れた。