日々読書メモ

大学で受けた授業をきっかけに太宰治を好きになりました。最近はもっぱら太宰です。自分が読んだ本の紹介(ネタバレ有)、感想、考察等書いてます。もちろん太宰以外でも書きますよ(^^)京都が好きなのでそれについても書いてます。

「火の鳥」を読んでみた

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太宰治の未完の作、「火の鳥」を読みました。

 

未完といえば以前の記事で「グッド・バイ」も書きましたね。

 

 

yonnsann.hatenablog.com

 

 

この作品は「すごく危ない作品だな」と思いました。

 

これについてはまた後ほど詳しく書きます。

 

とりあえずこの話がどんな話か雑ですけどあらすじを読んでちょっと掴んでください。

 

以下物語の大体のあらすじ↓

 

序編には、女優高野幸代の女優に至る以前を記す。

 

から物語は始まります。

 

勿論見てわかるとおりこの物語の主人公は高野幸代なのですが、それぞれの章や話の展開により、焦点に当てられるキャラクターは異なります。

 

最初は須々木乙彦という男に焦点が当てられています。

 

須々木は黒の羽織を買い、ホテルの部屋を借り、BARで女性と酒を飲んでいました。

 

そこで、一人の女性と親しくなります。

 

乙彦はそのあったばかりの女性と帝国ホテルに泊まり、一夜を過ごしました。

 

その女性が高野幸代です。

 

乙彦は親戚の高須隆哉に連絡します。

 

やがて、ドアが勢よくあき、花のように、ぱっと部屋を明るくするような笑顔をもって背広服着た青年が、あらわれた。
「乙やん、ばかだなあ。」さちよを見て、「こんちは。」

 

隆哉は大学の医学部生で、なかなか眠れないという乙彦のために、睡眠薬を渡しに来ました。

 

その後三人は自動車を拾い浅草まで繰り出します。

 

料亭で食事をしている時、乙彦が「しばらく旅行に出るからね、」と前置きし、隆哉に言いました。

 

「もう、僕に甘えちゃ、いけないよ。君は、出世しなければいけない男だ。親孝行は、それだけで、生きることの立派な目的になる。人間なんて、そんなにたくさん、あれもこれも、できるものじゃないのだ。しのんで、しのんで、つつましくやってさえ行けば、渡る世間に鬼はない。それは、信じなければ、いけないよ。」

(中略)

「それでいいのだ。僕の真似なんかしちゃ、いけないよ。君は、君自身の誇りを、もっと高く持っていていい人だ。それに価する人だ。」

 

隆哉と別れを告げ乙彦と幸代が二人きりになったとき、幸代が呟きました。

 

「あなた、死ぬのね。」

 

乙彦は「わかるか」と言って、幽に笑います。

 

「ええ。あたしは、不幸ね。」やっと見つけたと思ったら、もうこの人は、この世のものでは、なかった。
「あたし、くだらないこと言ってもいい?」
「なんだ。」
「生きていて呉れない?あたし、なんでもするわ。どんな苦しいことでも、こらえる。」

「だめなんだ。」
「そう。」このひとと一緒に死のう。あたしは、一夜、幸福を見たのだ。「あたし、つまらないこと言ったわね。軽蔑する?」
「尊敬する。」ゆっくり答えて、乙彦の眼に、涙が光った。

 

そして二人は薬品を飲んで自殺をします。

 

朝になると、須々木乙彦の遺体だけが見つかりました。

 

高野幸代は、生き残ってしまったのです。

 

 

…と、ここから物語が展開されていくのですが、

 

何故私がこの物語は危ないと思ったか。

 

結論から言うと、

 

登場人物それぞれの愛が強烈過ぎる

 

からです。

 

この物語には主に六人のキャラクターが登場します。

 

人を惹きつける自殺志願者須々木乙彦

男を魅了して止まない天才女優高野幸代

須々木を慕い幸代を憎む高須隆哉。

幸代を自分のものにしたい善光寺助七

 幸代をプロデュースした劇作家三木朝太郎

幸代の面倒を見る八重田数樹

 

この六人のうち、須々木乙彦を除いた五人は、

どこか危うい強烈な愛を持っています。

 

高野幸代は、女性は男性より遥か強い生き物であるから、もっと男性に施してあげるべきであると、もっと男性に尽くすべきであるという考えの持ち主です。

 

「みんな利巧よ。それこそなんでも知っている。ちゃんと知っている。いい加減にあしらわれていることだって、なんだって、みんな知っている。知っていて、知らないふりして、子供みたいに、雌のけものみたいに、よそっているのよ。だって、そのほうが、とくだもの。男って、正直ね。何もかも、まる見えなのに、それでも、何かと女をだました気で居るらしいのね(中略)男は、だって、気取ってばかりいて可哀そうだもの。ほんとうの女らしさというものは、あたし、かえって、男をかばう強さに在ると思うの。(省略)」

 

「男にしなだれかかって仕合せにしてもらおうと思っているのが、そもそも間違いなんです。虫が、よすぎるわよ。男には、別に、男の仕事というものがあるのでございますから、その一生の事業を尊敬しなければいけません。わかりまして?」

 

「女ひとりの仕合せのために、男の人を利用するなんて、もったいないわ。女だって、弱いけれど、男は、もっと弱いのよ。やっとのところで踏みとどまって、どうにか努力をつづけているのよ。あたしには、そう思われて仕方がない。そんなところに、女のひとが、どさんと思いからだを寄りかからせたら、どんな男の人だって、当惑するわ。気の毒よ。」

 

何故幸代がこのような考えを持っているのか、ここでは割愛しますが、それは彼女の生い立ちに関係があります。

 

「はじめから、そうなのよ。あたし、ひとりが、劣っているの。そんなに生れつき劣っている子が、みんなに温く愛されて、ひとり、幸福にふとっているなんて、あたし、もうそんなだったら、死んだほうがいい。あたし、お役に立ちたいの。(中略)男のひとに、立派なよそおいをさせて、行く路々に薔薇の花を、いいえ、すみれくらいの小さい貧しい花でもがまんするわ、一ぱいに敷いてやって、その上を堂々と歩かせてみたい。そうして、その男のひとは、それをちっとも恩に着ない。(中略)それを、あたしは、ものかげにかくれて、誰にも知られずに、そっとおがんで、うれしいだろうなあ。女の、一ばん深いよろこびというものは、そんなところにあるのではないのかしら。そう思われて仕方がない。」

 

彼女は自分に対しとても悲観的に、否定的に考えています。

 

だから男性に尽くすのだと思ってしまう。

 

なんて傲慢な考えなんでしょう。

 

正に傲慢な愛です。

 

酷く押し付けがましい愛です。

 

男は皆お坊ちゃん。

女を守るやら肉体を喜ばせばいいやら見栄をはるやら、男は女のことをちっともわかっていない。

 

しかし、彼女にとって須々木乙彦だけは違っていました。

 

ああ、この人、ずいぶん不幸な生活して来た人なんだな、と思ったら、あたし、うれしいやら、有難いやら、可愛いやら、胸が一ぱいになって、泣いちゃった。一生、この人のお傍にいよう、と思った。永遠の母親、っていうのかしら。私まで、そんな尊いきれいな気持になってしまって、あのひと、いい人だったな。(中略)あの人は、あたしに自信をつけてくれたんだ。あたしだって、もののお役に立つことができる。人の心の奥底を、ほんとうに深く温めてあげることができると、そう思ったら、もう、そのよろこびのままで、死にたかった。 

 

幸代にとって乙彦は、彼女の願望、考えそのものを肯定してくれる存在だったのです。

 

ですからその強烈で傲慢な愛をたった一日しか過ごしていない乙彦に向けたのです。

 

では高須隆哉はどうでしょうか。

 

幸代が初舞台にして女優として成功をおさめた劇を高須は観に行きました。

 

久しぶりに見る彼女の姿。

 

しかし高須が彼女に対して抱いた感情は、憎悪と嫌悪感でした。

 

僕は、あんな女は好まない。僕は、あんな女を好かない。あいつは、所詮ナルシッサスだ。あの女は、謙虚を知らない。自分さえその気になったら、なんでもできると思っている。(中略)もう、あの様子では、須々木乙彦のことなんか、ちっとも、なんとも、思っていない。悪魔、でなければ、白痴だ。

 

須々木乙彦を慕っていた高須は平気な顔で女優になっている幸代が許せませんでした。

 

そんな彼の元に幸代からメモ書きの手紙が届けられました。

 

さっき、あたしの舞台に、ずいぶん高い舌打なげつけて、そうして、さっさと廊下に出て行くお姿、見ました。あなたのお態度、一ばん正しい。あなたの感じかた、一ばん正しい。(中略)自分がまるで、こんにゃくの化け物のように、汚くて、手がつけられなくて、泣きべそかきました。(中略)あたしは、精一ぱいでございます。生きてゆかなければならない。誰があたしに、そう教えたのか。(中略)あなたの乙やんです。須々木さんが、あたしにそれを教えて呉れました。けれども、あなたも教えて下さい。一こと、教えて下さい。あたし、間違っていましょうか。聞かせて下さい。あたしは、甘い水だけを求めて生きている女でしょうか。あたしを軽蔑して下さい

 

このとき高須は何を思ったのか。

 

憎悪、嫌悪、それ以外の何かを感じたのでしょう。

 

高野幸代と高須隆哉を結ぶのは二人が慕い愛した須々木乙彦という存在です。

 

須々木乙彦を通してのみ二人の関係は繋がっていられる。

 

高須隆哉の愛とは、憎悪と共有の愛です。

 

高須隆哉にとって高野幸代は須々木乙彦なしには語れない存在。

 

同じ痛みを分かち合える唯一の人間。

 

ですから自棄になる彼女が許せず放っておけない痛いほどの愛が伝わってきます。

 

「僕は、さちよを愛している。愛して、愛して、愛している。誰よりも高く愛している。忘れたことが、なかった。あのひとの苦しさは、僕が一ばん知っている。なにもかも知っている。あのひとは、いいひとだ。あのひとを腐らせては、いけない。ばかだ、ばかだ。ひとのめかけになるなんて。ばかだ。死ね!僕が殺してやる。」

 

女優になるため三木の妾になった幸代の現状を知り、激しい感情を見せることからも彼の痛いほどの強い愛がわかると思います。

 

 

と、ちょっと長くなってしまったので他キャラはとりあえず割愛します。

 

読んで確かめてみてください。

 

とりあえずこの作品について言いたかったことは、

 

危うく強烈な愛が交錯する酷く感情を揺さぶる作品

 

だったということです。

 

 しかもこれ途中で衝撃の事実が明らかになるという…。

 

なのに未完成なので明らかになったはいいけど謎も結末も一切わからないままという…。

 

ある意味そこも衝撃です。

 

他にも色々考えさせられる場面が沢山あったのでそれについては別の記事で書きたいと思います。

 

では今日はこれで。